公認会計士がやる!株主総会レポート

公認会計士による新興株の株主総会出席レポート

第9回 3843フリービット株主総会レポート2018.7.26

第9回は、フリービットの株主総会です。同社は「インターネット」の会社です。2007年に東証マザーズから東証1部に鞍替えしました。時価総額は244億円。事業は以下の5つです。

①ブロードバンド事業・・・・中心は、新築(投資用賃貸)マンション・アパートにインターネットを入れる仕事。日本のハウスメーカー上位3社を独占するほどの強みを持つ。

②モバイル事業・・・・中心は、携帯通信網を持つキャリア3社から回線を借り受ける格安スマホ事業者(MVNO)への導入サービス(MVNE事業)。同時に持分49%の関係会社トーンモバイル(残りの持分51%はCCC)が格安スマホを扱うMVNO事業そのものを行っており、持分法適用会社として密接な関係を有する。

➂アドテクノロジー事業・・・・インターネット広告・アフィリエイト広告

④クラウド事業

⑤ヘルステック事業・・・・調剤薬局向けポータルサイト「EPARKくすりの窓口」、アプリ「EPARKお薬手帳」

①と③が稼ぎ頭であり、⑤が成長エンジン、②が事業リスク要因、④は全く話題にならないという感じです。詳しいビジネスモデルは事業説明会のところで解説があります。同社は2020年4月期に「売上高500億円、営業利益50億円」を達成するというコミットメントを中期事業計画(SILK VISION2020)に掲げ、邁進中です。

会場は渋谷駅横の渋谷マークシティイースト内にある渋谷エクセルホテル東急6階のプラネッツルームで、午前10時より開催されました。机無しイスのみで、全160席、出席者は80名~90名といったところでしょうか。株主数は6061名です。受付でお水のペットボトルをもらいました。インターネット開示事項もプリントアウトして各イスに置いてあり、親切心を感じました。個別注記表もよく読むと大事なことが書いてあります。総会はわずか40分で終了しました。質問は2つだけ。びっくりするぐらい誰も質問しないという意味で異様な総会でした。他の会社では恒例となっている高齢者の方からの株価クレームもない上品な総会です。

経営は石田会長と田中社長の二刀流でやっているような感じです。石田会長が全体的なビジネス展開及びCCCとのトーンモバイル事業の取り組み、田中社長がヘルステック事業を担当しているようです。監査役監査報告、ディスプレイによる事業報告の後、質疑応答に入りました。

(質問1)モバイル事業を懸念している。モバイル事業はずっと赤字で、MVNOのトーンモバイルの持分法投資損失もここ3期間、△6億円・△4億円・△3億円と損失を出している。モバイル事業のセグメント資産も30億円もあり、今後大きな減損損失が出たり、トーンモバイルの大きな持分法投資損失が出るのではないか?

(回答)

当社のモバイル事業は、MVNO事業者に対してネットワークおよびその周辺のシステムを提供している卸ビジネスである(MVNE事業・BtoBビジネス)。スタート当時は設備投資が先行したものの、競争が少なく速いスピードで売上が立ち上がったが、その後、3年程経過し競争が激化し、単価が下がり、市場が成熟してきた。しかし大手キャリア3社が独占している巨大市場であり、消費者の負担感も重くなっていることから、営業展開する余地はまだまだある。いろいろな顧客チャネルをもっている会社から多くの引き合いをもらっており、1ユーザーいくらといったような卸単価を設定した取引で契約している。将来減損損失が発生するリスクはない(田中社長)。

トーンモバイルはCCCと組んだ合弁会社であり、当社が設備を卸し、BtoCで展開してゆくMVNO事業を行っている(要するに格安スマホ事業)。トーンモバイルはLINEモバイルと同じ規模である。特許技術のおかげでかなり粗利率の高いビジネスになっている。継続課金部分で40%~45%の粗利率である。先行投資があって赤字が続いてきたが、もう黒字化が近い。トーンモバイルは当社のMVNE事業においても第2位のMVNO事業者の地位にまで成長してきた。(石田会長)。

・・・・以上のとおり、お二人ともモバイル事業とトーンモバイルの黒字化は自信満々でした。これらが黒字化に転じれば利益へのインパクトはかなり大きいです。しかし今週号の東洋経済(7/28号)にもMVNOの厳しい現状についての記事がありました。ここは注目です。

(質問2)社外取締役の吉田和正氏は日々会社にどのような助言をしているのか?(回答)インテル日本法人の社長をされいた、ITの市場動向・テクノロジーの状況に最も詳しい方である。いつも最新の情報にアクセスできる。他のテクノロジー上場会社の社外役員も多くやっており、そこからの知見も得られる。(ご本人より一言)電子部品からさまざまなデバイスができ、それをプラットフォーム化し、その上にサービスが提供される中で、次にどのようなリノベーションが創造できるのか、それをどんな戦略で事業化するのか、そういうことを一緒に考え、企業価値を向上させてゆきたい。

・・・・いい質問です。社外取締役の最大の職責は株主共同利益の代弁者としての役割です。社外取締役が日々の取締役会で株主共同利益の立場からどのようは助言提言をしているのかは株主総会で報告されるべきです。株主総会で株主から社外取締役にこういった質問を浴びせてこそ本来の社外取締役の機能が活性化するのではないでしょうか。

質問はこれだけで総会は終了し、20分の休憩を挟んで、事業説明会に入りました。

事業説明会

(1)田中社長より事業進捗の状況

2020年4月期に売上高500億円、営業利益50億円をお約束している。まだ投資家の方々には信じてもらってないようなので、株価に反映されていない。しかし十分に50億円は狙えるところにいる。そのプロセスを説明する。

アドテクノロジー事業・ヘルステック事業・不動産テックの3つが成長することによって営業利益50億円を達成する。

(アドテック事業)

その中で一番安定しているのがアドテック事業である。規模が大きくなるにつれて成長率は落ちているものの市場規模は拡大しているので、2020年4月期には20億円レベルの利益が出せる(現在12億円)。

(ヘルステック事業)

ヘルステック事業は売上が急増している。前年度4Qで黒字化を達成し、今年度も黒字で推移している。ビジネスモデルは、病院で処方箋をもらえば、それをスマホで撮影し、行く予定の調剤薬局に送信すると、薬局で待つことなしに薬がもらえる。1万2千店の調剤薬局と契約し、「EPARKくすりの窓口」というインターネットメディアとかスマホアプリ「EPARKお薬手帳」を提供している。お薬手帳により患者さんも料金が安くなり、調剤薬局も保険点数が増えるという構造になっている。膨大な医療関係の情報が集まる。現在月間10万件の情報が入ってくる。データそのものをどうビジネス化するかはまだ決まっていない。調剤薬局向けに事業をしている会社は少なく、競合がないということで市場伸びに合わせて業績も成長できる。

また、介護施設では介護ヘルパーが集まらず、労働もきつい。そこでそれを手助けするために今まで紙でつけていた介護記録をデジタル化して効率化する「コメットケア」という介護記録システム事業を開始した。業界NO1の介護施設に採用してもらっている。また小規模事業者用にも業務軽減の介護記録アプリ「介護サプリ」を提供している。

・・・・業界知人からの情報ですが、調剤薬局向けビジネスは金払いもよく、モラルも高く、営業もかけやすく、奇跡のように美味しいビジネスだと言ってました。逆に病院は、金払い悪く、営業かけにくいとこらしいです。

(不動産テック)

集合住宅(投資用賃貸マンション・アパート)向けのインターネットサービスおよびそれにIOTサービスを付加する不動産テック事業は今まで35万戸を累計で提供してきた。単身者向けのアパートやマンションが多い。単身者の生活はスマホが必須だが通信制限の関係で家では固定回線をベースにしたWi-Fiを使いたいというニーズが高い。当社の提携は大手のハウスメーカー上位3社を独占的に提供している。当期も10万件超増える。他にもIOTサービスについてVRとか、民泊の会社(UME、ナーブ、百戦錬磨)への当社のネットワークの提供とか、イオンハウジングネットワークと最先端ITソリューションのコミュニティサイトをイオンモールにオープンしたりしている。

 

(2)石田会長より中長期のプレゼンテーションです。

2020年より先に対してどういうベクトルを持っているのか説明する。

2029年にAIが人間の脳を超えてゆくシンギュラリティが起こる。

それに合わせてあらゆるテクノロジーの進展が加速してゆく。

(ブロックチェーンに管理された(信用の)インターネット)

AI、5G、IOTがインターネットではなく、ブロックチェーンの上に乗ってくる。データが改ざん不可能になる。インターネットは「BIT」の流通を実現してきた。ブロックチェーンは「信用」の流通を実現する。これは大きな変化になる。フリービットはインターネットを広げて社会に貢献するという理念を持っているが、我々が広げていかなければならないのは「信用のインターネット(Trusted Internet)」である。インターネットは今までさまざまなプラットフォマーが支配してきたが、ブロックチェーンがインターネットの上に乗ってくると、中央集権のデータベースやその管理機能が必要なくなる。プラットフォームなしにさまざまなアプリケーション、通貨すらもアプリケーションで書けるようになってくる。プラットフォーマーではなく、ネットワークサーブがそのような信頼を担保する時代になってくる。サーバーすらも必要なくなる。当社は、インターネットのインフラを担ってきたが、インターネットのインフラをブロックチェーンで管理してゆく。改ざん不可能なインターネットインフラ、侵入されても改ざん不可能な、改ざんされても瞬時にわかる仕組みというものを入れていく。この上にあらゆるデバイスを乗せていき、フリービットのインターネット網を使っている限り自然に信頼(Trusted)できるというものにしていく。

(ライフスタイル2.0)

EUでGDPRが施行された。インターネット上の個人情報の所有者は個人であり、プラットフォーマーではない、という考え方。基本的人権の中に個人情報をコントロールする権利を法律として定めた。具体的にはログに残っているデータを削除要求できる権利、ログにある自分の情報を全部自分で回収して他に移せる権利を与えられた。信頼されたインターネットの中にこういうGDPR時代の新たなユーザーとの関係を考えてサービスを組み上げなければならない。プラットフォーマーの時代からブロックチェーンによる分散化の時代、それにユーザーとどういう契約を結び、どういうユーザー体系を構築してゆくのかが重要になってくる。

(トーンモバイル事業)

トーンモバイルでは、行動把握エンジンというのを使い、 今子供が歩いているのか、立ち止まっているのか、車に乗ったのか、電車に乗ったのか、が瞬時にわかるようになっている。トーンモバイルを子供が持っていれば、連れ去りの瞬間に通知が来る。また、お年寄りの特殊詐欺被害もトーンモバイルで月間数千件ブロックできている。このように専用端末でやるサービスのほか、これらをアイフォンでも利用できるようにSIM化・オープン化するサービスも手掛ける。端末のお試しレンタル(無料貸し出しサービス)店舗を増やしている。Tカードに住所があるので手続きが簡単である。TUTAYAはレンタル得意であり、お試しレンタルすると41%が購入にもつながっている。・・・その他健康利用・フィンテック機能・オープン化等の話がありました・・・すごいスピードで話についていけません。最後にトーンモバイルの見守り機能の音声スピーカー化の実演がありました。

・・・・以上で事業説明会は終わりました。是非とも「ブロックチェーンに管理された(信用の)インターネット/ライフスタイル2.0」の展望をIRで表明していただきたいものです。会社のIR資料にはAI・ブロックチェーン・5G・ビッグデータ・フィンテックといった最新テクノロジーワードは一切出てきませんので気になっていました。いまだに「インターネットの会社」というのはブランディングとしてはどうかと思います・・・・。

最後の株主の質問で、(私は)売上高500億円、営業利益50億円の達成はまだ疑っており、達成できない場合、社長は持株を10%以下に減らす宣言をしてくれと半分冗談まじりでの提案がありました。社長は「1000人の従業員が目標達成に向けて必死で頑張っている。それで達成できないなら僕はクビかな、と思っている」と笑いながら仰ってました。

やはり目標達成に並々ならぬ自信を感じました。

終了は12時15分でした。お土産はフリービットの会社ロゴが入ったアンリのクッキーでした。クッキーそのものにもロゴが入ってました。まめですね。

以上、フリービット株主総会レポートでした。