公認会計士がやる!株主総会レポート

公認会計士による新興株の株主総会出席レポート

第14回 3993 PKSHA Technology 株主総会レポート2018.12.20

第14回は人工知能(AI)関連銘柄であるPKSHA Technologyの株主総会です。同社は「アルゴリズムライセンス事業」を営む会社です。
昨年9月にマザーズ市場に上場しました。一時は時価総額2200億円に達しましたが、今では1000億円を割り込む水準まで低迷しています。しかし事業は数あるマザーズ銘柄の中でも最も期待の高い分野であると言えます。総会は午前10時よりJR御茶ノ水駅から徒歩5分の三井住友海上駿河台新館3Fの会議室で開催されました。席は机付きで約160席ほどありました。イスのみの席も含めると200席ほどです。出席者は100名超ほどおられ、人気のほどがわかります。上野山社長は身長が190cm以上もあろうかという、超細身の方でした。顔はマスコミにもよく出ているとおり、学者肌の雰囲気です。もはや株式市場はリーマンショック並みに下落していますので株主総会どころではない向きもありましょうが、アルゴリズム事業を可能な限り理解したいと考え出席しました。総会は事業説明会を兼ねたような進行となりました。

(ビジネスモデル)
当社の事業モデルはアルゴリズムを使ったソフトウェア技術の会社である。画像認識であるとか、言語応答であるとか、特殊な処理をするソフトウェア、これをモジュールと呼ぶが、これを資産として作ってゆく。この様々なモジュールを組み合わせて、いろんな顧客企業のビジネスやプロダクトに組み込んで利用してもらう。また、モジュールそのものを自社製品ソフトウェアとして販売している。当社は、➀機械学習と➁深層学習のアルゴリズムをコアにしたソフトウェア技術の会社である。それを2つの販売形態で展開している。一つは「アルゴリズムモジュール事業」、もう一つは「アルゴリズムソフトウェア事業」である。
「アルゴリズムモジュール事業」は、顧客企業やいろんな業界に、当社のモジュールを少しだけカスタマイズして提供するビジネスである(当社のアルゴリズムモジュールを各顧客企業が提供しているソフトウェアに組み込む)。「アルゴリズムソフトウェア事業」はパッケージとしてアルゴリズムを含んだソフトウェアを自社製品として構築して顧客企業に提供する(当社のアルゴリズムソフトウェアを自社製品として顧客企業が製造するスマホ・医療機器・HEMS・TV等の製品に組み込んでもらう)。この二つの事業が良い相乗効果をもって成長している。従来はアルゴリズムモジュール事業が中心であったが、アルゴリズムソフトウェア事業が大幅に伸びてきており、2018年9月期は売上高は逆転した。

(機械学習・深層学習ソフトウェアと今までのソフトウェアの違い)
現在の世の中の99%のソフトウェア(アプリ・会計システム・銀行基幹システム等々)はエンジニアが一行一行プログラムを書き下して構築している(エンジニアがプログラムを書き下すことで製品として完成し、閉鎖されてしまう)。機械学習・深層学習に基づくソフトウェアは、例えば、その人が社員であればオフィスのドアが開き、社員でなければオフィスのドアが開かないという顔認識システムを例にとると、大枠のモデルは従前と同じようにエンジニアが記述するが、その後は、いろんな人の顔の画像を集めて入れていく。そうするとソフトウェアのパラメータが自動的にパラパラと変わっていって、モデルとして完成する(そして、その後も次々と顔の画像データを蓄積してゆき、進化する)。これが世間で人工知能技術と言われているものである。これは、データにより性能が上がるソフトウェア群というものがどんどん世の中に広がってゆく、ということで、当社は、その部品であるモジュール(カメラの顔認識等に使う画像認識モジュール・チャット等に使う対話モジュール・ECサイト等で使う推奨モジュール・囲碁等でも活躍した強化学習モジュール・工場検品等で使うエラー検出モジュール等々)を社内に蓄積して顧客企業に使ってもらっている。

(人員体制)
エンジニア人材の採用が加速している。優秀な人材からの希望がむしろ増えている。1年間でエンジニア数は28名から66名になった。

(事業環境)
我々のビジネスモデルが中長期に伸びていくであろうと確信している根拠は、2つの大きな波があるからである。一つは、「労働人口の減少」で、現在労働人口の減少は、特定の業種で急速に進んでいる。人工知能は人の仕事を奪うと言われているが、そうではなく、ソフトウェアで今の業務を維持しないと、製品・サービスの品質が維持できない。この状況は一過性の問題ではなく、10年20年と続く。
もう一つは、ソフトウェアの構築方法の抜本的転換である。現在のソフトウェアの市場規模は10兆円である。日本のソフトウェアの作り方は特長があり、ビルを建築するのと非常に似ている。全体の設計図を描く会社、一次受の会社、孫請けの会社等多層構造でいろんな会社が連携してソフトウェアを作っている(水平分業)。これだと計画してから完成するまで半年とか1年かかる。一方機械学習・深層学習のソフトウェアはデータを循環させて作るので、分担はできない、全て1社でやる(垂直統合)。このシステムはユーザーに使ってもらうと、そのデータがサーバーに入り、使えば使うほどソフトウェアの性能が上がるので、顧客の継続使用率も高くなる。データの循環を構築しながら、ソフトウェアを利用してもらう。日本で10兆円市場があるソフトウェア産業がこの新しいソフトウェアを作っていこうというプロセスに切り替わっていくことがまさに今起こっており、それが我々の成長を後押しする。

(中長期の企業価値を成長させる3つの軸)
1.アルゴリズムの精度向上・・・新たなモジュールを導入してデータを収集し、精度を上げるということを繰り返す。
2.提供する顧客企業の展開・・・多くデータを収集することが重要なので、日本を代表する大手企業と組むのが最優先である。1社あたりの単価を上げていくよりはナショナルブランドのアカウントを増やしていきたい。
3.ビジネスモデル・課金形態を進化させる・・・ライセンス事業だけでなく、今後はどれだけ経済的社会的インパクトがあったか等効果から逆算した成果報酬型の課金モデルもやり始めている。

(今期のトピックス)
1.画像認識ソフトウェアの加速・・・前期までは限った顧客企業とやってきたが、市場ニーズが拡大してきたので拡販を始めた。カメラ、イメージセンサーで映像・画像をインプットし、人を認識したり、製品の異常を検知したり、人の目で処理していたものをソフトウェア上で実現してゆく(顧客:東京電力・ドコモ・デンソー・ALSOK)
2.クレジット不正利用の未然防止・・・現在クレジットの不正利用が多発している。これを未然防止するソフトは以前からあったが、従前のソフトウェアの作り方では、新しいソフトウェアに更新される頃には、次の手口が出てきていたちごっこになっていた。当社の機械学習を用いたソフトウェアを入れると、不正利用データから新たな手口を発見してアルゴリズムパラメータを変えると、いちいちソフトウェアを開発し直すことなく、新たな手口を検出することで犯罪率を下げてゆくことができる。事業としても、金融系からの引き合いが非常に増えている。
3.一つ一つのモジュールが単発で動いているのではなく、中期に複利・相乗効果が生まれるような仕組みを採用している。画像認識モジュールも中期には、コールセンターの言語応答モデルとかと組み合わせ、言語と画像が一体となったソフトウェアが当たり前になっていく。
4.投資ファンド設立・・・アルゴリズムモジュールをいろんな業界で展開してゆくのが事業の主軸であるが、応用できる範囲が非常に広い事業であることから、現状の組織人員では全ての領域をフォローすることはできない。中長期に進出したい領域にファンドという形で手を打っておきたい。これはいわば、オセロの角をファンドの形で先に押さえておく戦略である。先んじて現状の資本や組織では届かないオセロの角を先に押さえておく。そして中期にオセロのコマをひっくり返してゆき事業を加速度的に成長させてゆく。資本の出し手も日本を代表する企業複数社から引き合いがある。

(質疑応答)
1.(質問)アルゴリズムが模倣されないのか?(回答)アルゴリズムにもいろいろあり、当社のアルゴリズムはデータによりパラメータが変わっていくアルゴリズムであるので、導入してデータが循環することにより進化していくので模倣しにくい。
2.(質問)企業によって違うOSやハードウェアに対応できるのか?(回答)当社は第一に、サーバーサイドから提供できるようなアルゴリズムに注力している。それにより、OSやハードウェアへの依存性を大部分排除できる。
3.(質問)適時開示が少なすぎる。IR姿勢を改めてほしい。(回答)IRに関しては事業特性上個別企業名は出しにくい部分はあるが、もう一段の開示ができないか社内で議論している。
4.(質問)JMDCに対する現物出資であるが、これは何のメリットがあったのか?(回答)JMDCの株主になることで利益を享受してゆきたい。
5.(質問)四季報を見ると2020年9月期予想は売上高40億となっているが、いかがか?(回答)引き続き高い成長率を目指してゆきたい。
6.(質問)従業員平均勤続年数1.3年は短くないか?(回答)入社数が急激に増えており、数字のマジックである。当社の離職率は極めて低い。創業7年で離職者は10名に満たない。
7.(質問)トヨタから出資を受けているが、これは自動運転関係か、自動車の生産関係か?(回答)トヨタとの取り組みの方向感は、クルマとはコンピュータデバイスであり、クルマが外界とインタラクションする、あるいは、クルマが車内とインタラクションする、というところにいろんな要素技術が集積していくわけだが、その中の一部を我々が推進してゆく。
8.(質問)大量の現預金があるが、どう使っていくのか?(回答)基本的に加速的に事業投資してゆく。具体的には、技術者をより加速的に採用していくことと、GPU・TPU等我々が製品を作るための特殊な処理をするサーバーに投資する。
9.(質問)社長が30万株売り抜けたらしいが、理由は?(回答)株式を売却したのは事実である。資本政策の中で流動性を高め、浮動株を広げてゆく必要がある。市場への影響を最小限にするために市場外で取引した。売却先は海外の機関投資家であると聞いている。
10(質問)株式分割は?(回答)流動性を上げていくということで考えている。今後株主のメリットデメリット含めて検討してゆく。議論はしている。
11(質問)ファンドの「知能化周辺技術への投資」とは何なのか?もっとわかりやすく説明してほしい。(回答)2つ理由がある。今後、アルゴリズムが全てのソフトウェアに組み込まれていく未来はほぼ確実である。我々が社内である実装・拡販というのは粛々とやってゆくのであるが、短中期に開発できない領域に対してソフトウェアを提供している企業が存在する。必ずしも知能化技術ど真ん中の会社だけではなく、中長期にそういう技術が組み込まれていくところを、オセロの角を先に押さえるという意味合いで投資してゆく必要がある。もう一つはグローバル市場の展開である。いくつかの地域において我々の技術領域が進んできており、米国を上回っている領域がある。そういった領域できちんと対応していくという意味合いが包含している。
12(質問)ファンドはコアの技術でないところへの投資と認識したが、営業利益に与える影響は?(回答)ファンドの有無は営業利益に大きく影響ない。ただ、キャリーと呼ばれる投資先企業のキャピタルゲイン等利益に及ぼす可能性を考えている。また、その企業との連携、投資した企業への技術提供も当社にプラスの影響を及ぼすと考えている。
13(質問)どのような状況になれば配当しようと考えているのか?(回答)考え方としては、我々の事業のサイズによっては一度ここで株主に還元した方が株主価値が高められるというタイミングにおいて切り替えていきたい。
14(質問)ファンドの足下の投資検討は具体的にあるのか?(回答)足下かなり多く来ている。
15(質問)GPU・TPUサーバー投資は自社内なのか顧客に対してなのか(回答)両方の使途である。購入したサーバー顧客に直接提供する場合もあれば、顧客に提供する前に技術開発に利用することもある。そこで製造業とは違い、研究開発と市場展開との距離がかなり近い特性をもっているので両面をもった研究開発を進めてゆく。
16(質問)ファンドで海外進出することになるが、技術・特許を盗用されるリスクはないか?(回答)対象国でビジネスをしていた人間を採用することも含めてファンドを運用してゆきたい。
17(質問)組織体制・コンプライアンスは大丈夫か?(回答)真摯に向き合っていきたい。以下省略
18(質問)新任取締役選任の理由は?(回答)上場から1年以上経過し、IRを含めた資本政策や事業拡大のためのアライアンス等新たな業務等の重要施策が増してきており、そのような環境下、新任候補の中田は投資銀行等で実務経験があるので選任候補とした。

以上で終了しました。午前11時30分終了です。お土産はもちろんありません。お水が1本提供されました。この銘柄も事業としては期待大なので、株価が半分になろうが、1/3になろうが、将来10倍100倍になることを期待して保有するしかありません。マザーズ銘柄とはそういうものですから。

ところで、有価証券報告書は株主総会後に発行されるので何の役にも立ちません。株主以外の投資家も決算発表やその説明会において見れてないので役に立ちません。株主総会や説明会で有価証券報告書を参照して質問できてこそ価値があるものです。その後に発行されてもほとんど価値はありません。そんな資料にしか開示されていない役員報酬をめぐる日産の事件は一体何なのでしょうか?実質的意義を持たせる意味でも有価証券報告書の早期開示が望まれます。

以上PKSHA Technology 株主総会レポートでした。