公認会計士がやる!株主総会レポート

公認会計士による新興株の株主総会出席レポート

第13回 6172メタップス株主総会レポート2018.11.29

 第13回はメタップスの株主総会です。代表取締役社長である佐藤航陽氏は今やマザーズ市場のロックスターともいうべき存在で、有名人やインフルエンサー等の時間を売買する取引所「タイムバンク」の創設、上場企業として世界初のICOとその会計処理をめぐる騒動、自腹で5000万円の広告宣伝費を使って鉄道広告をジャックし、20万部の大ヒットとなったビジネス書「お金2.0」の上梓、とこの1年話題に事欠きませんでした。しかし株価は話題に反応することはなく、3000円台であったものが2000円を一時割る水準まで落ちてきました。

 メタップスの事業は、①決済・電子マネー・フィンテック・仮想通貨等のファイナンス事業、②AI分析による広告事業を中核としたマーケティング事業、③タイムバンク事業やQR決済QR送金アプリpring等のコンシュマー・投資事業、に分類されます。今やメインは①の事業であることに疑いありません。地域別では前期の売上高211億円のうち半分以上の114億円が韓国事業の売上で、韓国での決済サービス事業が前期の成長ドライバーとなりました。

 会場は東京六本木の住友不動産六本木グランドタワー9階で午後3時より開催されました。座席は224席ありましたが、やはり人気があり、また株主も出席しやすい時間帯に開催していただけたということもあり、200名に近い出席者でした。

 壇上に立った佐藤氏はひげも剃り、さっぱりしたスーツ姿で好青年という印象でした。今まで出席した総会では経営者の謙虚な姿ばかりが目立ちましたが、佐藤氏の態度は堂々としており、声も力強く、やはりなかなかの器だなーという感じです。

 株主総数12,245名・議決権総個数134,499個、一方議決権行使個数は64,878個で過半数以下でしたが、定款で普通決議の定足数なし、特別決議の定足数3分の1としていますので、定款変更もOKです。定款変更による決算期変更で今期の事業年度は2018年9月1日から2019年12月31日までの16か月決算となります。

 議事は、①監査役監査報告、②事業報告(スライドとナレーション)、③佐藤氏による今年度の経営戦略・経営方針説明、③山崎祐一郎副社長による今期の新しい取り組みの説明、④質疑応答、と進められました。

 

(佐藤氏による経営方針説明)

 今期から純粋持株会社(ホールディングス)方式に移行する。ファイナンス事業は子会社メタップスペイメント、マーケティング事業は子会社メタップスワンにそれぞれ統合、中華圏(中国・台湾)事業は子会社メタップスエンターテイメントを現地持株会社としてグループ会社を整理・意思決定の迅速化を進めていく。コンシュマー・投資事業については10個投資して2,3個当たればいいと思っているので、打ち手を緩めず新規事業を立ち上げていき、軌道に乗りそうであれば投資をしてゆくというスタンスをとる。

 今まではすべての事業・会社をメタップスで管理してゆこうとしていたが、会社や事業が増える中で、全てをコントロールしてゆくのは不可能であり、非合理的でもある。今後はそれぞれの会社が自社の事業を(親会社のコントロールなしに)拡大推進してゆくことにより、その結果、グループ全体の企業価値の最適化が図れるという経営方針を採用してゆく(⇒自然界の生態系と同様に多様な事業が並存しながら「全体最適」を図る経営方針)。

 今期より事業領域を「連続的な成長を求める事業(市場・顧客・競合が既に存在している事業・・・決済事業やマーケティング事業等の一般的な事業)」と「非連続な成長を求める事業(市場が存在しない・会計上法律上の領域も存在しない・・・タイムバンク・pring・仮想通貨・ブロックチェーン)」の2つに区分した。前者の事業だけではグローバルな競争に勝てない。後者については、アイデアとスピードで前者とは区別してやってゆく。これに合わせて今期より経営体制も変更し、会長として佐藤氏が後者の事業を、社長として山崎氏が前者の事業をそれぞれ担当する。

 

(山崎氏による今期の新しい取り組み説明・・・一部抜粋)

①マーケティング事業における日中韓のクロスボーダープロモーション・・・日本のゲーム会社の中華圏進出、中国のゲーム会社の韓国・日本進出をサポートするのが強み。直近では、TikTok(ティックトック)の日本進出のプロモーションもやらせてもらった。

②ブロックチェーン技術への全力投資・・①ブロックチェーンゲームの開発、②ブロックチェーンゲームの売買プラットフォーム開発、③仮想通貨を使ったオフライン決済等幅広いサービスを展開してゆきたい。

・・・・今期より、ブロックチェーン事業が「非連続な成長を求める事業」の中心になってゆきます。

 

(山崎氏による中期経営方針説明)

2年前に中期経営方針を出したが、その時の目標が2020年に売上高1000億円、営業利益100億円であった。今回、グループ各社に中期計画を作らせ、それを積み上げた結果は、2020年に売上高514億円(当初計画の約半分)、営業利益58億円(当初計画の約半分)にしかならなかった。この乖離は今後M&Aやpring等新規事業で補っていきたいと考えている。

・・・・・なんとざっくりとした戦略でしょう!さすがです。

 

(山崎氏によるICOの会計処理確定報告)

負債に計上した繰延収益9.2億円について収益化する要件が固まっていなかったが、この10月に新しいトークンと新しいホワイトペーパーを発行し、古いトークンと交換することにより、繰延収益を収益計上することが可能になった。

・・・・・収益化できるような内容にホワイトペーパーを書き換えたということですかね?

 

(質疑応答)

・・・質問者のマイクの調子が悪く、よく聞こえない部分もありましたので、会社の回答を中心に報告します。

1、(質問)売上高を分析すると、全体では75億増加しているが、国内事業は4億円ダウンしており、韓国事業のみで売上を伸ばしている感じである。他の事業の成長に不安はないか(回答)マーケティング事業領域は伸び悩んでいる。決済・フィンテック・仮想通貨領域は非常に伸びている。前者の伸び悩みを後者が補った。後者は国内外とも着実に積みあがっており、メインの利益の源泉である。しかし中期計画は、仮想通貨もしくはコンシュマー向けの大きな事業をヒットさせない限りなかなか達成は難しいと考えている。

2、(質問)LINEとみずほ銀行との提携のpringに与える影響は?(回答)LINEとみずほの提携は新たな銀行を作るという話である。pringはQR決済・QRによる送金にフォーカスした取り組みであり、特に影響はない。

3、(pringの競合に対する戦略)LINEやヤフーは多くのユーザーを抱えており、その既存ユーザーに自らの決済サービスをどう使ってもらうかの戦略を立てているが、pringはオープンプラットフォームであり、金融機関や新しい決済を導入したいという小売業者に対してシステムそのものを提供するという非常にユニークな戦略をとっている。

4、(質問)世代の違う和田洋一取締役(元スクウェアエニックス社長)はどういう立ち位置や役割なのか?(回答・和田氏)佐藤氏山崎氏が斬新な試みで経営しているが、速度があるとやはり損も出てくる。私は彼らのフォローに回る立場、決してブレーキをかけるのではなく、(アクセル踏んだまま)ハンドルを切って障害物を避けたい。全体的に足りないところや漏れているところをフォローする用務員のおじさんです。(回答・佐藤氏)この2~3年で売上・従業員とも数倍になった。上場時月商2~3億だったものが20億近くになっている。このような状況を我々未経験者だけで乗り切るのは厳しい。過去に大組織を率いてきた方々の意見をかなり尊重して動いており、助かっている。

5、(韓国での仮想通貨決済システム)韓国でメタップスプラスがカルダノ財団が提供するエイダという仮想通貨と連携して、エイダを使ったリアル店舗での決済システムを開発している。今年から開始する予定である。もともと韓国で決済代行事業をやっており、大体10,000店舗ぐらいのネットワークを持っている。そこで仮想通貨決済を行う。一方、国内のpringは仮想通貨決済は考えていない。いわゆる電子マネー決済にとどめている。

6、(監査法人との仮想通貨をめぐるコミュニケーション)この一年いろいろとやりとりしたが、IFRSでは全くルールがないという状況で、監査法人の方々も苦労されていた。私たちもどういった会計処理がいいのか提案しながら毎週毎週詰めてやってきた。今回世界初の事例をつくれた。私たちもチャレンジングでよかったと思っている。今後も仮想通貨領域で積極的にルールを作ってゆきたい。コミュニケーションとしては良好で、お互い得るものが大きいのではないか。

7、仮想通貨の繰延収益の収益化は今期中にどこかのタイミングで計上することは決定している。ただそれが、第一四半期なのか第二四半期なのかということは検証中。

8、(竹中平蔵氏とのかかわり方)金融のあり方が大きく変わるという時期にご相談申し上げ、政府や金融庁とどうコミュニケーション取ればよいのかアドバイスいただいている。定期的ではない。

9、(pringへの三菱UFJ銀行の出資・参加の可能性)現在は関係ないが、可能性はあると思っている。しかし具体的に決まっていることは何もない。

10、(バンクペイとの競合)バンクペイに関しては銀行によって方針がバラバラで、決まっている動きがない。併存できる可能性もあり、競合となる可能性もある。

11、(質問)子会社であったタイムバンクを佐藤社長が個人で10月に全株をMBOしたが、どういうことなのか?(回答)本当は50%~60%だけ個人で買い取り、残りはメタップスに残すつもりであったが、1%でも残すと連結決算からタイムバンクが外れないとわかったので、全株を取得した。タイムバンクの将来性は半々であるが、事業を軌道に乗せるまでには5年~6年の赤字と多額の投資が必要となる。このような不確実性が高く、多額の投資を要する事業が、グループに悪い影響を与えてはいけないので、私個人の方でリスクをとって事業を進めることにした。今回は資本分離したが、今後は状況に応じて資本関係を持つか否か決めてゆきたい。

・・・タイムバンクを早くも連結から外したとは知りませんでした。IR見逃してました。個人で買い取って連結外しするとは大胆ですねー。

12、タイムバンクはうまくいかないといろんな人が思っているが、過去に決済事業にしても、グローバル展開にしても、絶対に失敗するといわれた。これが今やメインの収益になった。このようなリスクのある事業、可能性のわからない事業に対して逆張りの発想で挑戦してゆくのがメタップスのDNA、私のDNAである。

13、(今後の収益計画)メインでは決済・電子マネーが土台にある。一方で、仮想通貨やICOの代行事業(筆者注:IPOの幹事証券会社のような仕事をICOでやるような感じではないでしょうか?既に5件受注とのこと)、ブロックチェーン事業は今期から数字が出てくるとみている。広告事業は苦戦しているが、メタップスワンという統合によってシナジーを出しながら規模を出してゆくので成長はまだ見込めると思っている。あとコンシュマー事業に関しては正直わからない、QR決済がどれほど世の中に普及するのかや、ダップスゲームアイテム交換プラットフォームというのは未知の領域なので、利益計画には見込んでいない。

14、(新規事業についての戦略、立ち位置、考え方)新規事業とか、新しい投資をする場合に考えていることは、「大きなトレンドを外してはいけない」ということだ。2010年の時はアプリ、PCからスマホになる間違いのない流れがあった。この中でどういうビジネスモデルがあるのかということを極力もがいて、いろいろな事例を試しながら、うまくいったものだけ再投資してゆくということを繰り返し繰り返しやってきた。2013年~14年は決済・フィンテック・仮想通貨だった。この領域で何かあるのは間違いないが、どのビジネスにチャンスがあるのかは私にも見えないので大きなトレンドを捕まえたら、その後は細かく動きながら、チャンスを拾ってゆき、そこで見つけたものに再投資してゆくということをやっていきながら、今の事業をつくってきた。今後に関しても世の中の流れが大きく変わるタイミングなので大きなトレンドを外さない一方で、細かな動きを機動的に変化させながら繰り返しやってゆく。

・・・・2019年からの大きなトレンドの具体的内容については佐藤氏は触れませんでしたが、明らかにブロックチェーンでしょう。ブロックチェーンで想定できるすべてのビジネスに全張りすると宣言しています。

 

これですべて終了しました。株主総会はわずか1時間です。時間を無駄にしない佐藤氏らしい密度の濃い運営でした。

要するにこれからも波瀾万丈ということであり、ポジティブサプライズやネガティブサプライズの連続でしょう。とても短期目線では投資できません。事業に投資するというより、佐藤氏の10年後、20年後に投資するという感じですね。しかしこの器と才能の将来は追い続けたいですね。佐藤氏は今後は破壊的イノベーションの創出に専念するということですので、細事には一切興味がなくなり、ブロックチェーン関連事業に専念するのではないでしょうか? あくまで私見ですが、そんな雰囲気でした。

お土産はもちろんなし。ペットボトルのお水をもらいましたが、メタップス社のフィルム包装のある球形のペットボトルでした。鞄に入りませんが、記念に持って帰りました。

以上、メタップス株主総会レポートでした。