公認会計士がやる!株主総会レポート

公認会計士による新興株の株主総会出席レポート

第12回 3917アイリッジ株主総会レポート2018.10.24

第12回はアイリッジの株主総会です。同社はスマートフォンをプラットフォームとした「O2O事業」を行っています。O2O(オンラインtoオフライン)事業とは、同社が開発したプラットフォームエンジン「popinfo」を、例えば小売業の顧客のアプリに搭載すれば、そのアプリユーザーがその顧客店舗のエリアに近づくと、その店舗のタイムセール等のお知らせを自動的に配信し(オンライン)、実店舗に誘導して(オフライン)、顧客店舗の集客や販売促進に繋げるという仕組みです。popinfoを搭載したアプリのユーザー数は8500万人を超え、国内最大のO2Oエンジンとなっています。また、デジタルガレージ社との提携が決まり、同社から出資を受けるとともに、デジタルガレージのマーケティング部門を会社分割により切り出し、それをアイリッジが2018年8月1日付で子会社化しました(DGマーケティングデザイン)。分社化した電子地域通貨の子会社とともに新年度より3社での連結決算に移行します。

株主総会は、ホテルインターコンチネンタル東京ベイの4階で午前10時から開催されました。12社目の株主総会ですが、一番高級ホテルで贅沢な雰囲気の株主総会です。机付きイスが60席、イスのみが24席用意されていました。出席者は30名ほどです(総株主数3443名)。通常役員席の背後には、法務・財務スタッフが数名控え、議長である社長にアドバイスするのですが、今回は背後に誰もいませんでした。事業報告も動画ではなく、社長が事業報告書を読み上げる形で進みました。質疑の内容は以下のとおり。

(1)従業員全体の女性比率は25%、女性管理職(グループ長)は3名いる。

(2)配当はマザーズから1部に昇格した時点で検討したい。配当性向も1部に昇格してから検討する。1部への昇格はなるべく早めにしたいとしか言えない。

(3)(質問)従業員は12名増加しているが、人件費の内訳をみると販売費管理費の人件費は増加しているが、原価人件費は横ばいになっている。開発面での人材確保は本当に大丈夫か?(回答)業界全体でエンジニアの採用は難しくなっているが、当社はその中でもがんばって新規のサービスや開発の人材は確保できている。原価人件費は一部は仕掛品に繰り延べられて計上されるのでその影響もある。・・・・仕掛品は主に人件費で構成されているということですが、期首は21百万円、期末は26百万円であまり変わりません。納得できる説明ではなかったです。

(4)(質問)貸借対照表によれば、現預金が20億円あるが持ちすぎではないか。使途は?(回答)決算日(7月31日)時点では20億円あるが、翌日の8月1日にDGマーケティングデザイン社とDGコミュニケーションズ社に15億円出資しており、実際は5億円しかない。

(5)(質問)事業報告書にはアプリ開発・コンサル売上の低迷の原因として「案件の大型化、長期化、事業年度をまたぐ案件の増加」とあるが、決算で計上されている仕掛品26百万円しかなく、本当に案件が長期化・大型化・事業年度またぎをしているのか?7月末時点での受注残はいくらあるのか?(回答)仕掛品は主に人件費で構成されている。外注費は人件費が1としたら2とか3あるが、仕掛品には計上されず、案件が完成し、納品する直前に計上される。だから実質的に期をまたいでいる原価はもっと大きい。アイリッジの7月末の受注残は1億7000万円ほどである。・・・・アプリ・コンサル売上は年間10億円ほどなので、受注残は多いとまでは言えませんね。

株主総会は40分ほどで終了し、10分の休憩を挟んで経営説明会に入りました。

 

(経営説明会)

 

経営説明会は①事業説明➁成長戦略➂質問とありましたが、事業ごとにまとめました。

(1)今後のグループ体制・・・新年度より連結決算体制に移行

親会社:アイリッジ・・・O2Oアプリ企画開発、O2Oソリューション

子会社1(80%保有):DGマーケティングデザイン・・・プロモーション・デザインクリエイティブ

子会社2(88.5%保有):フィノバレー・・・電子地域通貨事業

提携会社(14%):DGコミュニケーションズ・・・不動産広告

 

(2)アプリ開発事例・・・当社が企画開発段階から請け負った

東急線アプリ(時差出勤してくれた人、例えば10時に渋谷駅を通過したらクーポンをあげる仕組み。)、大阪メトロ(圏内の観光情報)、三井ショッピングパーク(ららぽーと等のQRコード決済)、BOOKOFF(会員用のポイントカード機能)

 

(3)スマートスピーカーのスキル(アプリ)開発

従来、スマートスピーカーのスキル(アプリ)の開発はプログラマー等の専門家しか作成できなかった。それを一般の素人でも作成できるように開発プラットフォーム「NOID」を立ち上げた。管理画面上で「こういう質問が来たらこういう回答をする」をマウスとキーボードの文字入力で登録すると設定したとおりにスマートスピーカーが利用できるようになる。このパータンが累積したものがスキルになる。このようなプラットフォームは海外では事例があるが、国内では当社が最初である。

スマートスピーカーは、昨年の秋から発売され普及しだしたところであるが、今年度の出荷台数20万台18億円、2025年には165億円の市場になる。

現状は、Amazonのスマートスピーカーのスキルから始めるが、順次グーグル、LINE などにも対応していく。

マネタイズの方法は、当社のプラットフォームのライセンス料として月額での有料プランを設けている。顧客企業からカスタマイズの要求があれば開発料も考えている。

 

(4)電子地域通貨を提供するためのシステムの提供(MoneyEasy)

MoneyEasyは、スマートフォンによるQRコードを用いた電子地域通貨での決済システムである。コインを個人間で送金できるし、加盟店間でも使える(居酒屋が酒店で電子地域通貨で仕入れする)等、まさに地域内で電子地域通貨がぐるぐる循環するような機能を持たせている。スマホ決済、QRコード決済は非常に多くのメガプレイヤーが参入してきているが、当社はメガのように全国一律でやるのではなくて、地域をぐっと絞り、その地域ではどこでも当社の決済手段が使えるようにし、その地域の住民の方にこそ使っていただこうというところで差別化・特長化を出している。2017年12月に飛騨高山で「さるぼぼコイン」を発行したが、6カ月で飛騨高山4000店のうち、2割まで普及してきている。日常的にスーパー等でも使えるようにし、その領域の方々の生活に浸透するようなやり方で差別化をはかりたい。従来のスマホのQRコード決済方法は、お店側に負担がかかるようになっている(店側が決済用の機器を購入し、金額入力し、レシートも渡す)が、当社のQR決済方法は店側に決済用の機器を購入させず、店にはQRコードのポスターがあるだけで、客の方がそれを読み込み、自分のスマホに金額を入れて決済する方式をとった。店側に負担をかけさせないで導入しやすくした。確かに逆に客の負担は増えるが、客の側は日常的に使っているのですぐに馴れてくる。飛騨高山でもうまくいっている。

地域電子通貨事業は8月1日より会社分割で子会社としたフィノバレーで行う。

他に小田急電鉄の「新宿シネバルコイン」(2018年7月2週間程度の期間限定発行)、木更津市君津信用組合の「アクアコイン」(2018年10月)の2つを発行した。

離島や温泉場に展開していく思想も会社としてはあるが、当面は、その地域の導入しやすさとか、導入したいという意思が強い地域であるところから広めてゆきたい。

電子地域通貨の発行は、地域の金融機関が発行主体であり、当社はそのシステムを提供する。したがって、地域電子通貨事業のマネタイズ(収益化)の方法は、電子地域通貨プラットフォームのシステム利用料である。

電子地域通貨が将来仮想通貨になるかはわからないが、地域で使われる通貨であるから価格変動があると使いずらいので1円=1コインに固定している。電子マネーに近いものであり、仮想通貨とは違うと理解してほしい。

 

(5)DGマーケティングデザイン(8月1日より80%保有子会社)

この度デジタルガレージより会社分割して子会社化した同社は、セールスプロモーションの会社で、企業の新商品や会社全体のトータルブランディングをし、デザインしてクリエイティブを作っていく事業を行っている。WEBサイトでのセールスプロモーションといったオンラインの製作はもちろんであるが、店頭什器(スーパー等で新商品が出たときに特別な棚を設け、そこに旗を立ててセールスプロモーションする)の製作等オフラインの事業も行う会社である。まさに当社のO2Oビジネスと連携できる。O2O事業ではスマホでの誘導までであったが、これにより店頭で買うところまで販促の効果を高められる。

 

(6)DGコミュニケーションズ(8月1日より14%保有提携会社)

同社は不動産広告業界でのリーディングカンパニーであるが、よりデジタルな取り組みを始めている。家賃をクレジットカードで払えるようにしたり、自分の住んでいるマンションの価格がいくらなのかを検索できるようにしている。今まで当社が手掛けてきたO2O事業は店舗の視点であるが、不動産というのは生活者の視点である。生活者の視点に立つと、その地域で企業ごとに情報が提供されるより、トータルで情報が提供された方が便利ではないか等、当社のビジネスを生活者の視点に変えて新たに事業(ライフデザインビジネス)を展開してゆけるのではないかと考えている。

 

(7)O2O事業の深化・・・データマーケティング

従来のO2O事業は情報発信のところを強みにやってきたが、今後はその機能を強化し、価値を高めるためにアプリデータプラットフォーム、すなわちスマホアプリの消費者の操作記録データを蓄積し、それを分析することで、より見てもらいやすい、反応してもらいやすい情報を発信していこうという取り組みを進めていく。

 

(8)デジタルガレージグループとの提携

2017年5月に提携開始したデジタルガレージグループは、代表的な事業でいうと「食べログ」をやっている会社である。

 

一番有望に感じたのスマートスピーカーの分野でした。もちろん「食べログ」のデジタルガレージとの提携は大注目です。私は大阪メトロのアプリ「Otomo!」入れてますが、もう少し洗練されたものにしてほしいなという気持ちです。

終了は11時40分、お土産は無しです。社長も頑張って説明してくれていたので最後に拍手くらいはと思いましたが、なかったです。

以上、アイリッジ株主総会レポートでした。