公認会計士がやる!株主総会レポート

公認会計士による新興株の株主総会出席レポート

第7回 4319TAC株主総会レポート2018.6.26

第7回はTACの株主総会です。
TACは「資格の学校」として有名な受験学校です。
事業は、①個人教育事業、②法人研修事業、③出版事業、の3つを主力事業としており、売上高は①が圧倒的に多いのですが利益はほぼトントン、収益は圧倒的に②に依存しています。
時価総額はわずか61億円しかありません。東証1部2094社中後ろから56番目くらいです。

同社は、私が保有する唯一のバリュー株です。バリュー株とは、私的に定義すれば、①成長が止まり、②業績が横ばいになり、③投資機会も少なく、④資金が余っている、会社を言います。
株価は「成長期待」で上昇しますので、バリュー株は安値で放置されます。一方で、潜在力はあるので、会社に変化が見られたり、事業の成長性が見直されたりすると、突然ブレイクするときがあります。

会場はJR水道橋駅から徒歩5分のホテルメトロポリタンエドモンドで開催されました。となりではファンデリーの株主総会もやっており、同社の株主でもある私としては後ろ髪引かれる思いでTAC会場に入りました。席は156席イスのみ。出席者は100人は超えていたと思われます。

同社はここ数期にわたって講師と元生徒とのトラブルに絡んで株主提案がなされており、かなり荒れるという噂はありましたが、会場は役員が雛壇に座り、株主席との間に乗り越えられないような敷居があり、従業員が何人もにらみをきかせ、株主席にも従業員・講師株主と覚しき方々が前列に陣取り拍手喝さいするわ、不規則発言・ヤジは相次ぐわ、動議は出るわ、という1980年頃にタイムワープしたかのような物々しい雰囲気の株主総会でした。通常株主の発言者にはマイクを回して発言させますが、この総会ではマイクのある設置場所に株主を移動させて発言させるというやり方です。

ショックだったのは、斎藤社長が議長として株主総会を仕切れないほどお身体を悪くされていることでした。業界のカリスマとして一世を風靡した方だけにそのお姿は痛々しく、カリスマからの事業承継がスムーズにできるのか、大きな経営課題であります。

議長は多田副社長が就き、議事が進行しました。大きなディスプレイで決算説明が終わった後、議決に移り、株主提案者に意見陳述の機会が与えられました。

剰余金の配当議案提案者は、この5年半で49億円現預金が増加し、運用含めてキャッシュも80億円あるが、この間、投資も配当も全くしていないので、期末20円の配当を要求するものでした。①平成16年3月期から平成23年3月期までは全ての利益を配当してきたこと(配当性向100%超)、②赤字に転落した平成24年以降は低配当方針に変更したが、最近では配当政策をまともに述べなくなったこと(低配当にする理由がなくなった)、③20円という配当額は、同社の株価は配当額に大きく連動するので株価上昇のためにも必要である、④株主政策が厳しすぎる、と述べました。

次にトラブルに絡んだ株主提案者が、意見を述べましたが、省略します。発言中に議長不信任動議が出たり、他の株主が発言しだしたり・・・・トラブル関係は除きます。

その後、質疑応答がありました。とにかく、不規則発言・ヤジが多く、議長もその方々を指名するため、他の株主の意見がかき消されるような感じでした。
(1)(質問)今後、安定配当は実施できるのか(回答)もともと「会計の学校」と言われていたが、最近では「公務員の学校」と言われている。いろいろ環境も変化しているので、お約束はできないががんばる。
(2)株価についても努力するとしか言えない。
(3)大阪北部地震の影響は梅田校のボードが外れるくらい。地震当日は大阪エリアは休講。
(4)(質問)オリンピック・万国博対応で、接客方法の講座できないか?(回答)継続できる講座でないと事業とならない。外国人が資格をとる講座なら考えられる。中国人が留学してくると、弁理士を取ろうとする傾向にあるので、それの対応とかが考えられる。
(5)(質問)リカレント教育について当社に与える影響は?(回答)教育訓練給付金の他、専門実践教育訓練給付金が株式会社でも認められるようになった。ITストラテジスト等高度なIT系の研修講座も対象となり、申請して許可を得た。
(6)HPを見ずらく、受講者を逃している。改善してほしい。
(7)(質問)株主優待制度の講座割引10%は少ない。受講料定価の10%引きから実際受講料総額の10%引きにしてほしい。(回答)当社は一般的に大きな割引はしない方針である。早期割引があるくらいである。総額ベースではかなりの差が出てしまうので、できない。
(8)役員報酬は、子会社兼務している場合子会社からは一切とらない。招集通知に記載している金額が全てである。
(9)(質問)今後、講座はデジタル化するのか、実教室を重視するのか?(回答)当社が誇れるのは合格実績である。それは教室で生まれる。通信と教室では圧倒的に教室が合格率が高い。合格率を重視する限り教室である。難易度が低い資格などはネットを重視しており、子会社のオンラインスクールでは1ヶ月定額980円で講座受け放題のモノもやっている。
(10)講座によって年齢層が分かれてきている。公務員・会計士は若い年齢層、社労士・税理士・鑑定士は高齢化している。当社の受講生の社会人と学生の比率は以前は7:3で学生が多かったが、今は7:3で社会人の方が多い。
(11)(質問)売上200億円でずっと横ばいである。個人教育事業は利益が出ない事業になり、法人研修事業も伸び悩んでいる。AIの時代に資格はいらないとも言われており、当社はビジネスモデルの転換期を迎えている。事業環境は良く成長戦略投資が必要であるにも関わらず何もしていないし、IRに記載もない。IRに成長戦略をもっと記載し、経営陣がそれにコミットすることで成長を果たしてほしい。中期経営計画なども示してほしい。株主利益の代弁者である社外取締役がそれをチェックし、指導してほしい。(回答)新しい事業は相当量は仕掛けている。建築士とか語学事業であるとかやっている。なかなか苦しいところは、教育・資格事業で上場しているのは当社だけで新しい事業を発表するとすぐに真似されてしまう。皆様の心に届くIRをしていきたい。

約2時間で総会は終了しました。やはり今まで出席した成長株とは違いますね。社長はお身体を悪くされ、他の役員もほとんどが昭和時代の入社であり、しかも資格村で固めた経営陣の方々です。大きな転換は難しそうです。時価総額も極めて小さいので、買収する側というよりも、される側になる可能性を感じた株主総会でした。

お土産はTACボールペン、TAC出版「おとな旅プレミアム札幌・小樽・富良野・旭山動物園」の本、32枚入り絵葉書でした。ペットボトルのお水もくれました。

以上TAC株主総会レポートでした。