公認会計士がやる!株主総会レポート

公認会計士による新興株の株主総会出席レポート

第6回  7779CYBERDYNE株主総会レポート2018.6.22

第6回はCYBERDYNEの株主総会レポートです。

同社は「サイバニクス」という最先端テクノロジーによるサイボーグ型ロボットを研究開発する会社です。サイバニクスは、人間の脳・神経・筋系とロボットを脳神経から出る微弱な電位信号でつなぎ、身体が不自由な方でも「動かそうとしただけで」その意思に従った動きがロボットによりできるという、まさに「驚愕」のテクノロジーです。

同社は東証上場会社で唯一の種類株式発行会社で、山海社長の実質議決権比率は85%にも及びます。時価総額は2800億円、ずっと赤字ですが、東証マザーズではメルカリに次いで2位の時価総額です。

製品であるロボットはHALというブランドで、①医療用②介護福祉用③現場作業用があります。

①の製品は(a)「下肢タイプ両脚型」が主力製品で、身体に障がいのある方の補助の役割をし、「脳⇒HAL」だけでなく、「HAL⇒脳」というインタラクティブなバイオフィードバックにより自分の意思で動かなかった足を動かすという治療効果をも実現しています。他に(b)脳卒中対応の「下肢タイプ単脚型」、(c)これも脳卒中対応の超軽量型「肘膝単関節タイプ自立支援用(治験中)」のあわせて3種類。各国で医療機器認証がとれるか否かが重要です。

②の製品は(d)病院介護施設で介助する方が楽に作業するための「腰タイプ介護支援用」と、(e)介護される方が自分で歩けるようになる等自立するための「下肢タイプ自立支援用PRO(2018年4月販売)」の2種類。

③の製品は(f)防塵・防水対応を加えた改良新モデル「腰タイプ作業支援用(2017年12月新モデル販売)」

④周辺機器として(g)広大な商業施設・オフィスビルを自分で考えながら高速で掃除をする「清掃ロボット」や(h)HALの技術を応用したALS等身体を動かすことができない方でも意思伝達やナースコールを可能にする「Cyin福祉用(2018年夏頃販売)」が登場し、いよいよ2018年4月以降、全ての製品ラインナップ(a)~(h)がそろったということです。

会場は茨城県つくば市つくば駅前のノバホールで、11時から開かれました。大ホールで客席は1000席ありますが、出席者は400~500名といったところでした。東証マザーズ上場にもかかわらず、8万人も株主がいることを考えればそんなところでしょうか。入口には製品がズラーっと一式置かれ、担当者の方が株主に説明していました。動かしてくれればもっとよかったのですが。

山海社長は筑波大学教授でもあられる天才科学者なので、神経質なタイプの方かと思っていましたが、非常に謙虚な姿勢で株主総会を運営されておられましたので、意外でした。株主への説明は、招集通知を読むのではなく、パワーポイントによって社長が説明していくという事業説明会のような進行です。資料は主に決算説明会資料と同じものです。

社長が説明された主な内容は以下のとおりです。決算説明会資料の記載している事項は省いています。

(1)HAL等のデバイスから検出されるあらゆる身体・脳神経・生理・生活情報をビッグデータとして集積解析し、それをまたデバイスに反映し、ヒトの身体の中だけでなく、ヒトと革新的ロボット技術との間で機能を改善させる脳神経系のルートを作り上げる。医療用HALは日米欧で医療機器として認められ、半年前に米FDAからも治療効果を認められた。医師の介入によるデータも取り出され、その解析後の結果が再びデバイスに戻り、より効果的な治療を実現していく。ヒトの脳神経系からスパコンクラウドまでが一気に繋がっていくイメージで展開していく(サイバーフィジカル空間)。

(2)今までのヒトの身体からデータをとるにはセンサーを身体に湿式で接触させなければならなかったが、今後は服の上から心電図が測れたり、髪の毛の上から(頭皮に当てずに)脳波を測る等乾式・非接触でも可能な技術を確立した。

(3)身体が動かない人でも、身体を動かそうとするとそれが微弱な信号としてHALに伝わりHALが動き、その動いたという感覚神経の情報がまた脳に戻り、人とロボットの間でシナプス結合(神経と神経のつながり、神経と筋肉のつながり)が起こる。このような技術を持っているのは世界で当社だけである。

(4)清掃用ロボ:商業施設やビルではGPS電波が入らないので大きい施設をどのように動いて掃除すればいいのかわからない。家庭用ならランダムにやればいいが、広大な建物ではAIやビジョンシステムを使いながらロボットが判断して掃除してゆく必要がある。このロボは人が清掃領域を指示するとそのとおりに掃除してゆくTeaching playbackという機能を持っており、また、世界最速で清掃する。ダストの多寡の状況もマップとして把握できる。

(5)福祉タイプについては「下肢タイプ自立支援用PRO」ができるまで、供給を手控えていたが、バージョンアップ版が出来たので、今後展開していく。

(6)下肢タイプに2Sタイプという身長100cmから使える小型版を開発した。

(7)ALSが進行し、目以外全く動かせなくなった方のために、Cyin(サイン)を登場させた。これにより、そういった方でも文字入力、ナースコール、テレビのチャンネルを変えることができるようになった。また、ALSの疑いを検査するには身体の中に針を差し込まなければならず、凄まじい痛みがある。これを当社はペンシルのようなものを当てるだけで検査できるようにした。

(8)動脈硬化度・不整脈を測るためのバイタルセンサーを開発した。動脈硬化や不整脈を定期健診でやっても検出される頃には手遅れになる。この手のひらサイズのデバイスであれば日常的に病院・職場・家庭で検診し、早期発見できるようになる。そしてこのデータがさらにビッグデータとして集積解析できる。当面BtoBの商品である。

(9)脳卒中患者への対応は患者数も非常に多い(100万人以上)ことから、当社にとっても重要な事業である。脳卒中患者は右か左か片方だけに疾患が出てくるので、これに対応して単脚モデルを開発し、治験が進んでいる。

(10)医療用HALは脊椎損傷に対する治療効果が認められ米FDAから2017年12月に医療機器承認取得した。神経系と身体系の2つの分野で承認が得られたという非常に特殊なケース。そして全米最大のリハビリ病院と合弁事業も開始できた。

(11)動画を紹介1:交通事故で下肢が完全に動かない(脊髄損傷)12歳の少年にHALを装着して、3時間過ぎたころ、突然HALが動き始めた。そしてその後、少年の骨盤周辺が自立で動いた。・・・日経の報道で聞いてはいましたが、少年とお母さんのびっくりようと喜びようは涙なしには見れませんでした。

(12)腰タイプ作業支援用については、防水機能、防塵機能の要望があり、雨天・粉塵の多い場所でも対応できるようになった。また通信機能もあることから、どの現場が過酷であるとか、どういう使い方がされているとか現場の情報が把握でき、IOH(internet  of humans)/IOTでデータを取得し、再びフィードバックできるようになる。また、労務管理にも有用となる。

(13)動画を紹介2:上記(12)の現場での使われ方により、新しい使い方が出た。これが高齢等で足腰が悪くなった方の自立支援である。自分の力ではベッドから立ち上がれなくなった老人にHAL腰タイプを着けると、スクワットができるようになった。これを使った訓練を1か月やると、健常者のようにイスから普通に立ち上がり、スタスタと歩けるようになった。

(14)HAL腰タイプは、第1世代:作業支援⇒第2世代:介護支援⇒第3世代:自立支援と進化し、2015年3月期89台⇒2016年3月期498台⇒2017年3月期988台⇒2018年3月期1219台となった。

(15)今まで物凄い勢いで研究開発を進め、今回でイメージしてきた全ての役者が出そろった。

(16)サイバニクス産業がいよいよ確立されてゆく:ヒトと当社のデバイスがつながり、その情報がクラウドやスパコン等のIOH/IOT情報処理システムに集まってくる。こういったものを通じて事業をまとめていく。そして脳神経系から統合情報処理システムが一体的につながって、ヒトとモノとのビッグデータが集積処理され、統合された革新的サイバニクスシステムが確立されてゆく。

 

・・・・私見ですが、山海社長は、デバイスが優れていることはもとより、そこから得られるビッグデータこそ最も重視している感じで、生き残るためには一刻も早く「サイバニクス産業のプラットフォーマー」の地位を築かなければならないと考えておられるのでしょう。いい製品をつくるだけではAmazon、Googleといった巨大テクノロジー企業が進出してくればひとたまりもありません。日本で数少ない世界のプラットフォーマーになれる企業として懸けてみる価値はあるのかもしれません。

 

主要な質問事項は以下のとおりです。中には頭がおかしいんじゃないかという質問者もおり、山海社長も苦労されていました。高齢者の方は株価の文句ばかりです。決算短信や決算説明資料に開示されてある質問を長々と聞く株主もおられ、時間が制約された中でもっと重要な質問があったはずです。他の株主総会でもそうですが、若い方の質問の方が圧倒的にしっかりしています。

(1)(質問)社長の1年間の自己採点は?(回答)自己採点としてはよくやったと思っている。合格点だと思っている。事業連携や計画に合わせたマイルストーンのクリア、デバイスの開発、業界づくりまで、かなり活発に動いた。

(2)株価は毎日チェックしている。空売りファンドによる空売りで、米FDAの承認等いい情報が出ているにも関わらず、さらなる空売りを浴び苦労している。空売り比率はFDAの承認から急激に増えており、当初6%くらいだったものが、現在11%になっている。しかし一方で、証券会社からの貸株料は高騰しており(15%~30%ではないか)、我慢比べになってきている。いつか手放す(買戻す?)ときが来るであろう。黒字化に向けて準備は整ったので株価を回復させていきたい。

(3)米国のシトロンリサーチのひどいレポートには大憤慨して法的対応等を協議したが、あの程度の対応しかできなかった。業績を高めれば乗り越えていけると考えている。

(4)医療用HALが主力製品であるが、医療用は国の承認という問題があり、その関係でスピードアップしにくい。業績上昇をさらにスピードアップさせるために他のラインナップを揃えた。

(5)配当できないことは心苦しく、ご意見はグサッと刺さっている。支えていただいてる株主様のためにもがんばってゆきたい。未開拓の市場を開拓しているので、時間もかかるが、ブレイクした時には大きくなると考えている。

(6)HPは改善してちゃんと会社の良さをアピールできるようにしていきたい。また、サイバニクス産業をアピールするためにAPPLEのMacWorldExpoのようなことを計画している。

(7)ロボットスーツの月次稼働台数の月次開示は社内で検討していきたい。

(8)災害対策用スーツは技術的にはできている。遠隔操作のような技術もやっている。しかし事業計画には入れていない。今は業績に早く反映できる製品を優先している。

(9)日本で医療の現場で使われているデバイスは当社のモノしかない。トヨタやホンダが取り組んでいるものもあるが、医療レベルに至っていない。最後は治療効果が勝負だと思っているが、かなりアドバンテージがあると思っている。優位性の情報発信についてはいろいろ考えてみたい。

(10)研究開発はコアの技術が他社が追随できないレベルにまでまとまってきた。医療用以外は常に横展開して少しでも収益を上げれるように営業活動をしてゆきたい。

(11)NASDAQ上場については、選択肢としてはあるとは考えているが、現時点では正式な決定としては至ってない(宇賀取締役)。日常的に進めている(社長)。⇒雰囲気的には、言えないだけで、かなり進めているんではないかという感じでした。

(12)営業の強化は海外を中心にヘッドハンティングを行っている。初期の時は数名程度しか営業担当はいなかったが、今は数十名単位いる。営業を増やしていくフェーズにやっと到達した。

(13)川崎の更地は、共同でやっていく方式で検討している。

終了時間は13時20分くらいでした。お土産は①サイバーダインオリジナルキーホルダー、②オリジナルしおり、③山海社長の著書「サイバニクスが拓く未来(筑波大学出版会)」でした。

以上、CYBERDYNE株主総会レポートでした。